【長期フィードバック分析講座について】P.F.ドラッカーが推奨した知識社会を生きる私たちに必須の自己分析を行う堅実で、実践的な方法を学び、実践するシリーズです
この記事では、フィードバック分析に関わる様々な用語、概念を丁寧に解説していきます。
なぜ、意味をしっかり把握する必要があるのか?
ドラッカーは、以下のように説明しています。
強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。何かをすることに決めたならば、何を期待するかを直ちに書きとめておく。9ヶ月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する(これを継続する) -- プロフェッショナルの条件(ダイヤモンド社)
さらに、
このようなことを3年も続ければ、自らの強みが明らかになるだけでなく、強みを伸ばす方法や、強みを邪魔するものや、弱みを見つけられる
と言っています。
非常にシンプルで、強力な主張です。
しかし、シンプルな説明は、時に「間違った理解」を起こしてしまいます。自己流の理解や、世間一般の間違ったイメージに基づいた理解をしてしまうことで、フィードバック分析の効果を半減させることがあります。
フィードバック分析に関わる用語を、しっかりと理解し、シンプルで強力なツールを正しく、効果的に使える土台を作っていきましょう。
フィードとは何か?
まずは、フィードバック分析の「フィード(feed)」について理解しましょう。
フィードとは「押し出されるもの」のような意味があります。餌を与えたり、授乳することを意味する言葉です。また、コンピュータの世界では、更新情報を配信することをフィードと言います。
X(Twitter)や、Instagramなどの「最新情報が、次々と流れていく場所もフィード」と呼んだりします。
このようなことから、「どんどん流れ出ていくもの」をフィードとイメージしてください。
フィードバック分析においてのフィードとは「どんどん流れ出ていく、自分の行動の結果」のことを指しています。
つまり、「フィード = 行動の結果」と理解してください。
フィードバックとは何か?
フィード(出力、出ていったもの)をバック(戻す)ことを、フィードバックと言います。日本語では、帰還と表現します。この表現が使われることはありませんが、「回って戻る」というイメージの言葉です。
図にすると、以下のような状態を作ることを「フィードバック」と呼びます。
システムの出力を、そのシステムに返してあげることです。
このことを人間に置き換えると、人が取った行動の履歴や、結果を、その人に丸ごと情報として戻すことを意味します。
出力(行動の結果)を戻す理由は、その戻された情報を使って、次の行動を調整することを期待しています。
フィードバックを持つエアコンと、持たない扇風機
フィードバックによって行動を調整する仕組みのことを、「フィードバック制御システム」と呼びます。身近な例では、エアコンがフィードバック制御システムを持っています。
エアコンの場合、温度設定をします。目標とする温度を設定した上で、電源をONにすると、現在の室温を計測します。そして、現在の温度と、設定温度の差分を見て、行動を調整します。
例えば、目標温度を27度に設定し、完全オート設定にし、電源をオンにします。もし、室温が14度なら、最大出力で暖房をかけるでしょう。そして、室温が高まってきて、27度に近づいてきたら、徐々に出力を下げます。やがて、静かな温風を出す状態でストップします。
もし、家族の誰かが換気のために、窓を開けたとします。すると、一気に気温が下がります。すると、室温と設定温度の差を情報として、自分の行動を調整します。
エアコンの場合、フィードは「温風を出すことと、その結果、室内温度と設定温度の差分がどうなったか?」という結果を指します。これらをエアコンに与えてあげることで、エアコン内部の回路で計算し、次はどうすべきかを決めます。このループをずっと続けることで、室温を一定に保ち続けます。
これがフィードバック制御です。
一方で、扇風機はフィードバックを持ちません。スイッチオンしたら、設定された風をずっと送り続けます。自分が行った行動の履歴も、行動の結果も返りません。なので、ずっと一定の風を出し続けます。
これを「フィード・フォワード」と言います。出しっぱなしということです。
私たち人間は、「フィードバック制御機構」を、持って生まれており、日々使い続けていると考えても良いでしょう。通常、自分の行動の結果を目の当たりし、期待してた結果と違うなら、別の行動を起こそうと考えます。
この構造がフィードバック制御です。
ビジネスにおける「フィードバック」は、どういう意味で使われているのか?
ビジネスシーンでは、「フィードバックをください!」と言ったりします。これを意味することは、「あなたは、どう思いましたか?あなたの感想や評価をください」です。
ここまでのフィードバックの説明を踏まえれば、以下のように表現できます。
私には期待していた結果があります。それは、これです
あなたは、どのように感じましたか?
改善案ではなく、あなたが「どう感じたか」の結果をください
その結果と、私が期待していたものとの差を知って、次の行動を決めたいと思っています
という意味になります。これがフィードバックです。
フィードバックを与えるときは、解決策や、解決案ではなく、「単純に結果を教える」ということがポイントです。その結果をどうするかは、相手が考え、決めることです。
今後、フィードバックという言葉を使う時に、意識してもらうと良いでしょう。
フィードバック分析とは?
フィードバック制御とは、行動の結果と期待していた結果との差を確認し、その差を小さくするように次の行動を自動的に調整する仕組みです。
これに対し、フィードバック分析は、すぐに次の行動を調整するのではなく、一旦立ち止まって、「システム全体」を見直すことです。
エアコンで例えてみましょう。
設定温度が27度で、現在の気温が20度で、差分が7度もあるので、強力な温風を出したとします。そして、いつもの通り、25度付近から、緩やかな風に切り替えたとします。すると、なかなか27度にならないとします。原因は、外気が非常に寒く、どんどん家全体が冷えているため、緩やかな風では、冷えるスピードに対抗できていないことだとします。
通常のエアコンは、工場で設計・設定されたフィードバック制御のルールに従って動作し、そのルール自体を変更することはできません。つまり、状況に応じて制御方法を柔軟に変えることができないのです。
しかし、もし「フィードバック分析するエアコン」だったら、「なかなか27度にならずにいた。何が悪かっただろうか?総点検してみよう!」とし、「そうだ、外気温を調べて、あまりに寒い場合は、強いままにすべきだ」と結論を出し、「制御ルールを変更」し、次の行動で試してみるでしょう。
こんなことまでできるエアコンがあれば、おそらく「AIエアコン」と呼んで差し支えないでしょう。
このように、フィードバック分析は、「フィードバック制御のルール」や、必要とする情報の欠損など、さまざまなことを検討して、新しい行動ルールや、前提を作り直すことを指します。
つまり、フィードバック情報を参考に、「システム全体の修正、調整、方向転換」を可能とするものが、フィードバック分析です。
私たちは、無自覚にフィードバック分析をしています
実は、私たちは日常生活の中で、意識せずにフィードバック分析を行っています。例えば、こんな経験はありませんか?
仕事からの帰り道、ふと焼き芋屋を見つけました。「これを買って帰ったら、子供たちが喜ぶぞ!」と思い、早速購入しました。ところが、家に帰ってお土産として渡してみると、予想に反して子供たちの反応はあまり良くありませんでした。
このとき、私たちは自然と「あれ?どうしてだろう?」と考え始めます。これこそが、まさにフィードバック分析なのです。私たちの期待は「焼き芋を買って帰れば、子供が喜ぶ」ということでしたが、実際の結果は「あまり喜ばなかった」というものでした。
そして、この期待と結果のギャップに気づいた時、自然と「何が間違っていたのだろう?」「その原因は何だろう?」と分析を始めます。
もしかしたら子供たちは焼き芋が苦手だったのかもしれませんし、その日はすでにおやつを食べていたのかもしれません。このように原因を探り、次の行動に活かそうとする思考のプロセスが、フィードバック分析の本質なのです。
卓越した成果をあげるためのフィードバック分析とは?
新しい何かを始める時、なんとなく始めるのではなく、必ず、
誰に対して、何に対して貢献するのか?
さまざまな貢献の中から、どれに対して貢献するのか?
選んだ貢献のために、どんな卓越した成果を出すのか?
卓越した成果を出すことを可能にする強みは、何だと仮定するか?
ということを事前に明らかにしておきます。もちろん、全ては仮説です。これらを何かを始める前に記載しておき、実際に行動します。
半年から一年後に、「実際はどうだったのか?」と期待、想定との差をチェックします。そして、その差の原因を、さまざまな要因をチェックし、何が悪かったのか、何がうまくいったのか、などを検討します。
その中で、「強みの定義は合っていたのか、間違っていたのか、惜しかったのか、見当違いだったのか」を考えたり、貢献と思っていたものは、本当に貢献だったのか?を確かめたりします。
これの活動が「フィードバック分析」です。
まとめ
重要な用語の整理
今回は、用語の整理をしました。以下の通りです。
フィード = 押し出されるもの、出力、転じて継続的な行動の結果とそのプロセス履歴
フィードバック = フィードをシステム側に戻すこと、システムの入力にすること
ビジネスシーンでのフィードバック = 改善案、解決案、アドバイスではなく、直接の結果(感想、印象、顧客としてどう思ったか)を返すこと。改善、解決は本人が考える前提
フィードバック制御 = フィードバックを使って次の行動を調整する仕組み
フィードバック分析 = フィードバックを使って、次の行動を調整する仕組み全体をチェックし、修正を試みること。期待する結果や、前提すら修正対象とする
フィードバック分析の実践ポイント
以上のことから、強みを知り、卓越した成果をあげ、大きな貢献を果たせるようになるためのフィードバック分析には、3つを何かを始める前に、記入しておくことです。
貢献
卓越した成果
それを可能とする強み
そして、振り返りでは、この3つを総点検します。また、実行のプロセスもチェックし、想定外のことがなかったかなどを振り返ります。
次回予告
難しい話が続きましたが、いよいよ実践をしていきましょう。私が用意したワークシートを使って、実行してみましょう。使いながら、ワークシートをアレンジしてもらって構いません。アレンジしやすいように、シンプルに作っています。
是非、お楽しみに!