私は、Abrasus(アブラサス)の「薄い財布」というプロダクトを、長年愛用しています。この財布のコイン入れ部分の設計(デザイン)は秀逸です。
今回は、このコイン入れ部分を深掘りして「シンプルの大切さ」を、一緒に考えてみたいと思います。

コインケースというものを通じて、あなたのビジネスや、仕事や、私生活に「シンプル」を取り入れたら、どんな改善や、前進が可能か?を考えてみてください。
では、早速始めます。
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Less is more、建築におけるシンプル
Abrasusのコイン入れ部分は、まさに「Less is more」を体現しています。「Less is more」は、ドイツ出身のミース・ファン・デル・ローエの建築デザイン哲学を表した言葉です。
「より少ないは、より豊かである」
といった意味になります。
彼の建築は、シンプル・モダンです。安藤忠雄デザインにも大きな影響を与えています。今見ても、モダンですし、美しいです。

薄い財布のコイン入れ部分は、「小銭が15枚程度しか入らない」設計になっています。
どう考えても、少ないですよね。
試しに、あなたの財布の中の小銭の枚数を数えてみてください。ほとんどの方は、20枚、30枚とあると思います。
ところが、この財布は「たったの15枚」しか入りません。
ところが、少ししか入らないという「Less」によって、すごく便利という「more」を体現しています。
Less is more 以前のコインケース
私は、財布が太くなるのが嫌で、コインケースを別で持っていました。形状は、半円形のもので、ボタンやチャックを使わず、ふたの形状を工夫することで、閉じれる革製の軽量なものです。
このコインケースを見つけた時、「これこそ、探していたものだ!」と思いました。
ボタンや、チャックがないので片手で蓋を開けられるし、斜めにすることで、小銭をざっとチェックして、取り出すことができました。
Abrasusに出会うまでは、これが小銭の最高のソリューションだと、思っていました。
ところが、このコインケースには、問題がありました。
小銭の数が簡単に増やせてしまう
小銭が増えると、見つけるのに時間がかかる
小銭が増えると、足りるか数えるのに時間がかかる
小銭が増えると、2,3の結果、諦めてお釣りをもらってしまい、小銭が増える
この4つの問題は、小銭の数が増えだすと「悪循環」に陥ってしまう構造です。小銭の数が増えてくると、見つける・数える時間が増え、諦めて小銭をもらってしまいます。すると、さらに見つける、数える時間が増え、さらに小銭をもらう回数が増えます。
薄い財布の解決方法
まず大前提として、このコインケースを使うには「少しだけ学習の時間」が必要になります。
最初は、不便と感じるかもしれませんが、人間の学習能力を信じてください。あっという間になれます。
学習する内容は、『小銭を受け取ったら、素早く「同じ方向にコインを入れて、種類別に並べる」』ことです。慣れると無意識でできます。小銭を受け取ったら、さっとレジを移動し、歩きながら、投入、並び替えができます。
この小さな習慣だけを身につければ、もう、問題は解決します。
小銭を出すとき、少ない枚数の小銭が、綺麗に並んでいるので、「小銭が足りるか?」すぐに判断できます。さらに、探す手間はゼロです。なぜなら、少ないからです。また、小銭が少ないので、並び替える手間もほとんどありません。
少ない小銭が、種類別に並んでいる
すぐに探せて、すぐに取り出せる
無駄に小銭を受け取ることがなくなる
少ない小銭なので、すぐに整理できる
トヨタ生産方式や、Kanbanソフトウェア開発にも通じる発想
世界のトヨタは、トヨタ生産方式というものを確立しました。この中で「無駄を減らす」ために、在庫や、仕掛品を減らす仕組みがあります。その仕組みのことを、カンバンと呼んでいます。
カンバンは、小さなプラスティックの名札です。このプラスティック片を使って、生産数の見える化と、制限を行っています。
この考えを応用したものが、Kanbanソフトウェア開発です。状態を表すボードを作って、そのボードにはWIPと呼ぶ制限を設けます。WIPとは、Working In Progress と呼ばれるものです。
WIP制限によって、ソフトウェア開発で「同時進行で、仕事をしすぎない」ようにして、無駄を減らします。これを個人の仕事術にも応用したものを、Kanban仕事術と言います。
この両者に共通するのが「制限によって、生産性を高める」ことです。制限を行うことで、スループットを増やすことが、肝でもあります。
いつか何かのタイミングで、トヨタ生産方式については、あれこれ紹介したいと思います。
要するに、Less is more です
Abrasus のコイン収納がやっていることは「制限」によるスループットの増大です。
少ない小銭を、整理して、格納する
そのための小さな習慣(すぐに身に付く)を持つ
これによって、手に入れた小銭は、すぐに使います。少ないので小銭を出すスピードも早くなるし、収納も早くなります。そして、小銭が貯まりません。
小銭整理の時間も、労力も減らして、財布も薄く保てます。
他の分野にも、応用を考えてみることが大切
コインケースのポイントは、
個数を制限する(少なくする)
少ないものを整理する
小さな習慣を身につける
この3つで、できています。
あなたのビジネスや、仕事で、このようなアプローチを取ることと、大きく改善するものは、ないでしょうか?
社内情報共有で考える
例えば、経営者は「DX(デジタル化、アプリで仕事の効率化)」と称して、ついつい、いろんな機能が入っているWebサービスを選んでしまいます。たくさんの機能が付いていると、お得に感じるし、便利に感じるし、可能性を感じます。
しかし、実際は「学習コスト」がかかり、ツールの使い分けに混乱し、社員が全然使わないということが起こります。
toiee Labが、10人ぐらいのチームだったとき、実は
Slack
Evernote
これだけで仕事をしていました。Slackでやりとりして、そこに収まりきらないものは、Evernoteに記載して、そのリンクをシェアするという使い方でした。これなら、学習コストがかかりません。
なお、現在なら、Slackで「ドキュメント」と「やることリスト」を管理できます。Slackだけで、Slackを工夫することで、なんとか仕事をやり遂げるようにする方が、おそらくは生産性が上がると思います。
機能の少ないツールを使う
知的生産活動のために、いろんなノート術や、仕事術が提案されています。それに対応して、さまざまなノートアプリがあり、YouTuberが、いろんなアプリを紹介しています。ざっと上げると、以下のとおりです。
Notion : 最近、一番伸びているノートアプリと言える
Obsidian : 高機能、プラグインで機能拡張できる(WordPressみたい)
Roam Research : リンク、箇条書きのメモツール
OneNote : Microsoft版Event
Loop : Mircrosoft版(猿真似)のNotion
実は、どれもこれも、機能が豊富で、夢や、可能性を感じます。そこが落とし穴でもあります。可能性は、悪く言えば「実現されていないこと」や「結局は、実現できないこと」でもあります。
素晴らしいアプリを手にしたら、世界が変わる!と思うかもしれませんが、実際は何も変わりません。
道具 x 使う側の進化
これが必要です。より重要なのは「使う側(人間)」の進化です。
私個人は、「Appleのノート」を愛用しています。めちゃめちゃシンプルですが、実は、そこそこ機能豊富です。基本的に、これで十分かもと思っています。チームで活用するなら、Notionを「バカみたいにシンプルに」使っています。
また、やることリスト(ToDo)は、Appleのリマインダーを使っています。これで、GTD(Getting Things Done)を実行しています。いろんな機能を使うよりも、自分の行動の方が何倍も重要です。
まとめ
今回のニュースレターをきっかけに「シンプル」を再考してみてください。今回のシンプルは、「Less is more」です。
「思いっきり、数を減らすと、効果的になるものはないか?」と、考えてみてください。最低限に絞り込むことで、できることが増やせるかもしれません。
また「上限を制限」することで、効率化できるものはないか?を考えてみてください。食料のストックなどは、WIP+見える化というアイデアを使うと、驚くほど管理しやすくなります(これらは、別の記事で触れます。お楽しみに)。
また、「小さな習慣」を身につけることで、大幅な進歩ができるかもしれません。シンプルなツールになって不便になるところを、人間側の進化で解決できないでしょうか?
あれこれ、考えてみてください!
追伸:
この秀逸な小銭入れも、最近は出番が、めっきり減りました。ご想像の通り、電子マネーの普及です。それでも、現金やカードの一部は、持ち運ぶ必要があります。
この薄い財布は、電子マネー普及時代にも、本当にピッタリだなと思います。
他にも、いろいろあるので、シンプルの入り口として、ご覧ください。
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何か面白い「シンプル化」に取り組んだら、是非、教えてください。コメントに記載してくださっても良いですし、メールを送ってくださっても良いです。あなたからの反応があると、すごくやる気が出ます。
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