昇進を避けたがる若い人が増える中、マネジメントという素晴らしい仕事について考えてみよう
こんな時代(ウクライナ情勢、中国、ロシアの問題や、東南アジア、アフリカの政治状況)だからこそ、マネジメントの重要性を考え直す必要がある。日々の仕事を通じて、私たちは、より良い世界を「体現」することができるし、すべきだ
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20年近く前の話です。
私は、博士課程に在籍し、人工知能関連の研究をしていました。その研究の日々は、知的興奮に満たされ、楽しいものでした。幸運にも、博士課程の前期のうちに、博士号を取得できる目処も立っていて、興味の赴くままに、研究ができる環境でした。
自他ともに、研究者が向いていると思っており、天職だと感じていました。
しかし、企業と共同研究をする中で、少しずつですが
「この知識は、本当に実用化までされるのか?」
「研究での議論は、社会にインパクトをもたらすのか?」
「論文という実績を積み上げるだけの人生は満足なのか?」
という疑問が湧いていました。
そんな中、ふらっと立ち寄った大学の図書館の経営コーナーで、P.F.ドラッカーに出会ってしまいました。
運命が変わってしまいました。
ビジネス、マネジメントという世界の魅力を教えてもらった
中身を確認するために、「マネジメント」と「現代の経営」を手に取り、冒頭を読み始めました。一行目から、私の心は奪われ、そのまま席につき、夕方まで読み耽(ふけ)りました。
ドラッカーから受けたメッセージは、
「ビジネス(企業)は、単なる利益追求の手段ではなく、社会を豊かにする方法であること」
「マネジメントは、共に働く仲間、その家族まで含め幸せにする力があること」
「さらに、民主主義、自由、人の尊厳を専制や全体主義から守る重要な役割を持つこと」
でした。この洞察に衝撃を受け、私は「ビジネスがしたい」と思うようになりました。
こんな小さな本、ありふれた場所(いつもの大学の図書館)で、私の将来の方向が大きく変わるなんて、思いもしませんでした。
マネジメントの3つの危機
マネジメントは、企業を成長させる、利潤を増やすなどの「経済面」の役割だけではありません。単なる「経済」の枠を超えた、社会全体に影響を及ぼすほどの力があります。
良いマネジメントが行われている組織では、ポジティブな変化を起こせる良いコミュニケーション、コミュニティ、違いを受容したり、活かせる場、相手を大切にする基本的な姿勢、謙虚さなど、豊かさを享受していくために必要不可欠な文化が作られます。
昨今、地域の人間的なつながりが薄くなっている中、とても大切なものを提供してくれる可能性があります。
また、マネジメントが最低限果たすべきこととして 「自分の強みを生かして、成果を生み出し、社会に貢献しているということを実感させ、自己実現を手助けする」 があります。
これを達成できるとしたら、これほど素晴らしい仕事はなかなかないと思います。
非常に魅力的で、やりがいがある仕事にもかかわらず、以下の3つの危機に直面しています。
1. 役割が知られていないどころか、誤解すらされている
大学で教鞭を取っていた時、学生たちに「マネジメント」のイメージを尋ねたことがあります。多くの学生は、「管理、指示、コントロール」だと思っていました。
ほとんどの学生は、アルバイトなどを通じて触れているマネジメントは、「指示、管理、コントロール」です。部活動でも、同様のアプローチが多い結果、マネジメントを「指示、管理、コントロール」だと思っているようです。
これは「目的を達成するための手段の1つで、万能の方法でもないし、決まった方法でもない」ことを知りませんし、完全に誤解しています。
優れたマネジメントは、チームや組織の文化を形成し、メンバーが最高のパフォーマンスを発揮でき、お互いを思いやり、尊重し合える人の繋がりを作り出すことができます。
このような事実を知らないどころか、マネジメントに携わる人々に「悪いイメージすら」持っています。
これは、とても危機的な状況だと思います。
2. 成り手が減る一方
上記のような状況が続く中、ある調査では「80%以上」の若者が、役職を望まないというアンケート結果を公表しています。つまり、マネジメントの仕事はしたくないと回答しています。
間違ったマネジメントは、組織や、その働く人の家族にまで害を及ぼします。さらに、その先の社会にすら害を及ぼします。そのようなものを見せられすぎて、マネジメントの魅力が見失われています。
マネジメントの成り手が減れば、質は落ちていきます。
質の高いマネジメントを担う人がいなければ、組織は成り立ちません。優れた組織(企業、NPO、行政)が次々と生まれてくる状況を作らなければ、衆愚政治を経て、専制や全体主義に取って代わられてしまいます。
3. 新しいマネジメントの方法を学ぶ機会がない
繰り返しになりますが「マネジメント」として知られているのは、マネジメントのための「手段」であって、目的ではありません。
指示、管理、コントロールは「マネジメント」とは言いません。これはマネジメントをするための手段です。マネジメントとは何か?は、マネジメントが目的とするものによって決まります。
マネジメントの目的は、さまざまあります。経済面、環境面、社会面、倫理面など、多くの分野について「目的」を持つようになっています。その中でも、最低限満たすべきもの、目的があります。
それは、P.F.ドラッカーが「正統性の根拠」として定義した
「そこで働く人の強みを、成果に変え、社会貢献させ、自己実現を手助けること」
があります。どんなマネジメントでも、この目標、目的だけは外せません。これが、すべての基礎です。
現代の社会は、知識社会であり、高度なデジタルテクノロジー、インターネット、SNS、相互通信、イノベーションの時代、変化の早い時代です。このような状況の中、
「そこで働く人の強みを、成果に変え、社会貢献させ、自己実現を手助けること」
を目的として、最適な手段を選び、考え、使っていく必要があります。おそらく、指示、管理、コントロールは、あまり役立ちません。
では、どうしたらいいか?
それらは、新しいマネジメント(組織)の研究によって、様々な提案がされ、事例が整理されています。これらの新しい事例を学べば、マネジメントにチャレンジしたい人は、もっと増えるはずです。
「プレイング・マネジャー」として、やっていきたい人も増えていくはずです。
今こそ、マネジメントについて考えよう
P.F.ドラッカーの「マネジメント」という名著があります。
この冒頭は、ウクライナ情勢、中国、ロシア、東南アジアやアフリカの専制に近い政府などの状況を思い浮かべ、書かれたのか?と思うほどです。
それほど、衝撃的な内容です。
次回からは、この名著の中から、さまざまな示唆を引き出しつつ、
ドラッカーが定義した「マネジメントの正統性」を紐解くプロセスで、マネジメントの「目的」を考える
知識社会において「フラットな組織」で、マネジメントが重要であること、その役割がファシリテーターとなること
ティール組織とラーニング・ファシリテーションの関係
などを、あれこれ一緒に考えたいと思います。
それでは、次回をお楽しみに!
「マネジメント」を、全然理解していないことがわかった。「人に指示をしたり、管理したりすることではない」ということだけしか、理解していなかった。
これからの記事で、本当のマネジメントについて理解ができそうで、楽しみです。