独学法としてのラーニング・デザイン、ラーニング・ファシリテーション
自らの学習プロセスを設計する意識によって学ぶ効果は高まり、自らに良い声がけをすることで、学習効果を高めるアプローチ。現代には必須のスキルになる
数年前、私は、toiee Lab(トイラボ)を立ち上げました。
その目的は、人本来の学び方や人間特有の機能に根差した学習プロセスを設計・ファシリテートする体系的な知識を構築することでした。これまでに40以上の分野で教育をデザインし、講座開催とファシリテーションを実践してきました。
その時の経験を、うまく体系立てる方法として、私が博士号を取得したときに大いに刺激を受けた「複雑系の科学」を取り入れ、toiee Lab独自の「ラーニング理論」「ラーニングデザイン」「ラーニングファシリテーション」を構築しました。
ラーニングの理論は、先生だけのものではない
これらの知識や、スキル、姿勢は、先生だけが使うものではありません。もっと、様々な立場の人に使ってもらえるものです。
例えば、経営者が学べば、ティール組織の実現のヒントが得られるでしょう。ティール組織を生み出さなくても、効果的な自己改善のマネジメントを実施するヒントも得られるはずです。親であれば、子供の自発性と、好奇心を伸ばし、学校教育の範疇を大きく逸脱するほどの知識を得るような子育てを実現することもできます。
学習というものは、組織、チーム、生徒、教室だけでなく、「毎日、個々人の中で」発生するものです。
独学法としてのラーニングデザイン、ラーニングファシリテーション
したがって、「ラーニング理論」「ラーニングデザイン」「ラーニングファシリテーション」は、独学法として使うことができます。
それが独学法としての「セルフ・ラーニングデザイン」「セルフ・ラーニングファシリテーション」です。
今日は、なぜ、学習プロセスを自らデザインすること、そして自らをファシリテートすることが必要なのか?について解説します。
現代社会における、自己主導型学習の重要性
私たちが生きる社会は、いつの間にか変化の連続、変化が常態の社会に変わりました。学校で学んだことと、仕事を通じて、あるいは慣れで獲得できるスキルや、知識だけでは、キャリアを築くことができなくなりました。
例えば、生成AIは、私たちが学生時代にはありませんでした。学校で教えられたこともありません。また、義務教育としての正解の使い方、学び方も存在していません。それらが作られた頃には、生成AIは、さらに進化し、アプリとしての機能が増えているでしょう。
同様に、マーケティングに関する知識、技術も、次々とアップデートされ続けています。
これらは、仕事をしていたら勝手に身につく知識ではなく、「別途、時間を用意して学ぶ必要がある」ものです。
つまり、このような環境下にいる私たちにとって、
自己主導型で学ぶ姿勢、習慣
自己主導型の学習スキルを高めること
は、とても重要です。
多様なテーマと、ラーニングデザイン
現代社会で求められる知識や、技能は「多様」です。
コミュニケーションスキル、コンセプト力、マーケティングの理解、批判的思考、クリエイティブな考え、破壊的イノベーション、イノベーティブな思考、デザイン思考、プログラミング、生成AI、ノート術、情報収集、仕事術・・・。
あげればキリがありません。
これらを学ぶとき、インターネットの記事や、YouTube動画、書籍を参考にすると思います。しかし、多くの人が、学習に挫折します。
その理由は、「学習のプロセスを、適切に設計できないこと」にあります。何かをうまく学ぶには、学ぶプロセスに注意を向け、ステップを考え、それぞれで自分の進捗を確認し、方向が合っているのか?を確認するなどが必要です。
しかしながら、私たちは「多様なものを学ぶアプローチ」を、学生時代に学んではいません。
従来の教育システムで教えられる「学び方」とは?
従来の教育システムでは、教える側が学習内容を決め、その習得方法を設計し、学習者(生徒である私たち)は、それに従うのが当たり前でした。
例えば、漢字の学習では、先生に書き順を習い、ノートに縦に同じ字を何度も書くという方法を宿題として出されて、それを一生懸命実行します。このような授業によって、私たちは、無自覚の間に 「覚えるには、ひたすら繰り返す勉強方法をするものだ」 と、学び方を覚えます。
また、覚える漢字の順番は、教える側が決めています。
私たちは、言われるがままに作業をすることで、何かを身につけるという勉強の仕方をしてきました。その多くは、
なんとなく概念を読み、おぼろげに記憶する
試験問題を何度も解くことで、記憶を強化する(意味まで分からずとも)
このようなアプローチを採用しています。これは、繰り返せば覚えて、できるようになるというシンプルな戦略です。
このアプローチで重要なのは、点数が取れる問題をたくさん用意してくれるメソッドを見つけることでしょう。
学校で身につける学び方には、限界がある
しかし、このような学び方は、社会に出て自らの強みを見つけ、伸ばし、成果を出すことを通じて、社会貢献し、自己実現を図るような場面では、ほとんど役に立ちません。むしろ、害すらあります。
いわゆる受験勉強スタイルでは、(1)必ず先例がある、(2)誰かが出る順にしてくれている、(3)繰り返せば正解するようになる、(4)例外は出てこない、ということを前提としています。
このような学び方で、プログラミングを学んだ人は、確実に「使えない人材」になります。なぜなら、教えられないと学べないからです。最新の技術は教科書になるには、1年以上かかります。また、仕事で役立つレベルで習得する時に、試験勉強的な方法では、必要なスキルが身につきません。
意味を理解していないプログラマは、とんでもないコードを書いたりして、大惨事を引き起こすことも多々あります。
私たちは、自分の学び方を、自分で設計する責任がある
私たちは、受験勉強の多くに採用されている「パターン認識に頼った、弱い学習」という単一で効果が薄い学び方を卒業する必要があります。
その代わり、学ぶ対象、今の自分の実力、置かれている環境を考慮して、どのように学べば良いか?を自分で設計し、実行する必要があります。
あらゆるものを学ぶとき、意識的に「学ぶプロセスを設計」することを通じて、最終的には「自分で自分のために、学ぶプロセスを、目的や、知識に応じて、自分で設計できるように」なることが望ましいです。
自由自在にラーニングを設計できれば、学ぶことがもっと楽しくなるはずです。
ラーニングデザインとは何か?
私は、学習をデザインするためのフレームワークを構築しています。大枠は、FARMと名付けたものです。
Formula(方程式): 学習における基本的な法則や原理、土台にできるノウハウ
Adaptive(複雑適応系): 知識や技術と、それを身につける自分自身を複雑適応系として捉える
Reward(報酬系):学習意欲を高める、継続学習を実現するための仕組みづくり
Mental Model(メンタルモデル):知識、技術を構造化し理解を深める
これらは、非常に抽象的ですが、誰もが学べます。また、1つ1つの概念を理解すれば、自由に使いこなせるようになります。
KAMEDEMYで、今後取り上げていきます。
ラーニングデザインの第一歩は、もっと簡単なことから始められます
最終的には、この大枠から、いろんな発想ができるようになることが目標ですが、ラーニングデザインの最初の一歩は、もっと簡単なことから始めることができます。
具体的には、
自分は、どのように学習しているのか? と、無自覚な自分の学習方法や、学習プロセスに注意を向ける
ことです。
ここからスタートするだけでも、多くの気づきがあります。
ランニングを「ラーニング」デザインする場合
例えば、「ダイエットのために、ランニングを始めよう!」と思ったら、あなたは、どうしますか?
なんとなく着替えて、靴を履いて、とりあえず走り出しますか?それが悪いわけではありません。自分が、どのようなパターンで行動しているか?を自覚することが大切です。
ちなみに、ランニングは正しいフォームで走らないと、中高年には危険なスポーツです。また、強度が高くなりすぎる傾向があり、すぐに運動をやめてしまいます。強度が高い運動は、糖質をたくさん利用するので、お腹が空いて食欲が出ます。
そして、強度が高い運動は、糖質を使いますが、脂質はあまり使いません。結果、ダイエット目的でランニングを始めたのに、太ってしまった・・・ということが起こります。
あるいは、ランニングを始めたけど、すぐにやめてしまうかもしれません。習慣化に失敗していると言えます。習慣化の方法は、ご存知ですか?単に繰り返すだけでは、習慣になりづらいです。習慣化の確率を高める方法を知って、使う必要があります。
このように「自分の学び方」に注意を向けて、これ以外の方法はないか?と考えることから、ラーニングデザインを始めることができます。
ラーニング・ファシリテーションとは何か?
ラーニングデザインは、学習プロセスの設計です。学習する項目、目的、ステップ、ステップの大きさを決めたりする作業です。自分で決めたステップに従って、実際に行動を起こすことで、学習が発生します。
実際に行動を起こした時、その行動がより効果的になるように、自分の学ぶ姿勢や、考え方や、行動に「良い介入」をすることが、ラーニングファシリテーションです。
つまり、学ぶために行動をおこなっている時に、学習が促進されるように、介入すること、それが「セルフ・ラーニング・ファシリテーション」です。
ラーニングデザインと、ラーニングファシリテーションは、セットになっています。準備と実践という関係と言っても良いでしょう。
KAMEDEMYでやっていくこと
様々な分野で、セルフラーニングデザイン、セルフラーニングファシリテーションという視点で、どう学ぶと良さそうか?を紹介したいと思います。
具体的な事例を通じて、あなたに、独学法としての「ラーニングデザイン」「ラーニングファシリテーション」を知ってもらいたいと思っています。
そして、これらの知識を得ることで、「もっと学ぶことを楽しめるように」なっていただこうと思っています。
乞うご期待ください。